さびしさなど、知らなかった。

 孤独は所詮、相対的な状況にすぎない。
 はじめから独りであるならば、人恋しさという名の感情を、正確に解するのは困難だ。比べる対象がそもそもないのだから、それは至極当然のこと。己が両手の届く範囲だけ、己が目でみえるものだけが、アシュレイの知る全てだった。
  時折用事を伝える使用人たちや、ただ教養を叩き込むだけが役目の教師陣など、たいした意味を持ち得ない。なにしろその世界は、文字通りに自分独りだけで完結していたのである。それはまるで、興味のない舞台をとりとめなく眺めるかのよう。ただ目の前に現れては去っていく人々をあるがまま見つめて、そこに解釈のはいる隙など存在しなかった。
  憐れまれようが、気味悪がられようが、斯様な評価など砂一粒ほどもアシュレイには届かない。遠巻きに見ている者は当然のこと、第四の壁を越えて干渉する奇特な輩さえも含めて、心を動かすには至らない。第三者に感情を揺さぶられるその心地を、一度たりとも実感することはなく、世界とはただそうして当然に、何事もなく回りゆくのだと思っていた。

――知ってしまった今となっては、もう戻れない。

Midnight Rain

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